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Teikyo Lab.

近代日本の機密費を探査し
現代社会の透明性のための示唆を得る

近代日本の機密費を探査し現代社会の透明性のための示唆を得る

明治から戦前までの近代日本の政治を研究対象とする365体育比分,360足球直播文学部史学科の小山俊樹教授は、
ブラックボックスとされてきた「機密費」の使途を明らかにすることで、
激動の時代の裏側を読み解こうとしてきた。
また、五?一五事件の実像と、事件の裁判を報じたメディアや世論の動きを詳らかにし、
戦争の時代へ転換する社会の様相を示したことでも知られている。
そのような中で見えてきた近代日本の諸問題の中でも
「政治と暴力」や「メディア」に着目して、研究を進めている。

近代日本政治のブラックボックス
「機密費」の使途を探る

明治維新から大正時代、戦前までの近代日本は、政治において大きな変革が続いた時代だった。1890年の国会開設を契機に立憲国家の枠組みが整えられ、内閣制度発足、大日本国憲法発布、議会政治の始まり、政党内閣へと目まぐるしく動いていく。そして、1931年の満州事変勃発、翌年の五?一五事件を経て、政党内閣は終焉を迎える。

この数十年間におよぶ近代日本の議会政治と政党政治を研究テーマとする文学部史学科の小山俊樹教授は、ただ歴史の流れを追うのではなく、誰が、どう行動した結果として政治が変わっていったのか、人の営みとしての側面を捉えようとしてきた。その手がかりを得る史料として、小山教授が着目したのが「機密費」である。「機密費」とは、機密の用途に充てるための資金で、監査を通すことなく使うことができる秘密公的資金のこと。戦後はGHQの指令により「報償費」と名称を変え、現在も存在している。

小山俊樹教授の写真
小山俊樹教授

そのルーツを辿ると、江戸幕府が遊郭を公許するときに課した賦金に行き着く。明治時代になると、内務省所轄の警察がその仕組みを受け継いで警察探偵費(後に警察機密費という費目が設定される)という費目が設けられた。ここから機密費の歴史が始まる。

さらに帝国議会の発足前後には、中央政府にも機密費制度が作られ、内閣、内務省(本庁?地方庁)、外務省、陸軍省、海軍省、司法省といった各省庁に機密費が計上されている。国家予算の枠組みによるものながら、例外的に各省庁が自主的に管理することが認められ、議会や他官庁に使い道を問われることもなかった。そして機密を扱う史料は処分されることが常であるため、歴史の中で機密費がどのように使われたかは不明なままだった。ところが、小山教授はこのブラックボックスの中身を確認できる史料が存在していることを知る。

満州事件に関わる外交機密費の史料。
上海六三邸でリットン調査団を芸妓接待した記録(1932年 上海総領事館)(左)、諜報活動やメディア対策が目立つ支払内訳書(1932年 青島総領事館)(右)
出典:外務省外交史料館
満州事件に関わる外交機密費の史料。
上海六三邸でリットン調査団を芸妓接待した記録(1932年 上海総領事館)(上)、諜報活動やメディア対策が目立つ支払内訳書(1932年 青島総領事館)(下)
出典:外務省外交史料館

西園寺家に伝わる史料から
政治の裏側まで見えてくる

「機密費に関する文書の多くは、敗戦の際に真っ先に焼却処分されました。一方で、機密ゆえに重要であるに違いないと残していた人もいたと見えて、戦前の機密費に関する史料が各所に残っていることがわかってきました。断片的な史料を調べ、継ぎ合わせて、敗戦前の日本政治の裏面で起きていた機密費にまつわるストーリーを紡いでいきました」

機密費に関して残っている史料には、公的機関が所有している公文書もあれば、総理大臣や秘書官などの家に残され、現代まで伝わってきたものもある。小山教授の研究にとって特にインパクトが大きかったのは、1906年から1908年、1911年から1912年の2回にわたって内閣総理大臣を務めた西園寺公望の家に残っていた内閣機密費の史料(現在は立命館史資料センター所蔵)で、戦前期の内閣機密費に関する史料原本としては唯一のものだと考えられる。

10年近くの年月を費やして集めた「外交機密費」と「内閣機密費」に関する史料集成を刊行(ゆまに書房)。
<br>これ以外にも残存する断片的な機密費史料は多岐にわたる。

10年近くの年月を費やして集めた「外交機密費」と「内閣機密費」に関する史料集成を刊行(ゆまに書房)。
これ以外にも残存する断片的な機密費史料は多岐にわたる。

同時期には伊藤博文が残した内閣機密費の史料があるが、戦災で焼けてしまい、書き写したものしか残っていない。対して、西園寺家に伝わる内閣機密費史料には、機密費の使途に関するさまざまな情報が記載された領収書や銀行口座書類などの原本が残っている。これがとても重要な点だ。

例えば、第二次西園寺内閣では、機密費交付先として新聞?通信社などメディア関係者に対してかなりの出費をしていたことが領収書などからわかる。立憲政友会の総裁でもあった西園寺公望は、政友会内閣が成立した直後からメディア関連企業(新聞?通信社)に対する資金援助を行い、懇意にしている新聞記者個人に対しても異動の際の餞別として機密費から出資している。資金援助を受けたメディアは、対立する政党のスキャンダルを暴くなど、“政友会系ジャーナリスト”として政府の情報活動に加担した。

明治44年度の機密文書からは、内閣機密費だけでは選挙費用が不足したため、外務省機密費から流入させたことが明らかになった。文書には「参萬圓」「外務省より受入」という文字がしっかりと書き記されている。

「西園寺家の史料には、次の政権に引き継ぐ直前の支出や、内閣、大蔵省職員に対する期末手当などの詳細が記されています。こうした史料の中身を分析することで、現代の政治システム、会計監査制度の課題などを探るヒントになるような見方を提示できればと考えています」

機密費に関する史料原本が残されていることは極めて珍しい。領収書や銀行口座書類に書き込まれた情報から、内閣運営の実態が見えてくる。
機密費に関する史料原本が残されていることは極めて珍しい。領収書や銀行口座書類に書き込まれた情報から、内閣運営の実態が見えてくる。

五?一五事件の背景にある
“政治と暴力”の問題に着目

近代日本の政治を語るうえで欠かせない出来事といえば、1932年に起きた五?一五事件がある。犬養毅首相が海軍将校に暗殺されたこの事件については、政治的な側面から語られることがほとんどだったが、小山教授はその背景にある時代の空気や民衆の反応、メディアの報じ方によって変化していく世論などを丁寧に調べ上げていった。
それらをまとめた一般向けの新書は、第42回サントリー学芸賞(思想?歴史部門)を受賞している。

五?一五事件は、当初それほど関心を集めなかったが、その後の裁判の中で犯人たちの思想や背景などが明らかになると、世間の受け止め方は一変する。将来を約束された若いエリートたちが立身出世の道をなげうって世直しのために起こしたクーデターであるとして、大衆は彼らを「赤穂浪士」「大衆の代弁者」と呼び称えた。そんな世論を受けて日本国内の空気がガラリと変わり、戦争への道が拓かれていったという。

「事件が起きた前提として、政治家や社会の上層部の身勝手なふるまいによって経済格差が広がったことへの不信感があり、そんな中でエリートたちが蜂起したというヒロイックなストーリーに大衆は魅了されてしまいました。一方で、だからといって暴力は許されることではないという議論も起こり、社会が分断されていく。そこには政治の限界もありますが、暴力を肯定するまでに至った“政治と暴力”の問題も、私が五?一五事件で注目したポイントの1つです」

過去との対話を繰り返し
歴史家の視点で現代を見ていく

近代日本の歴史を研究するうえで小山教授が大切にしているものを尋ねると、「人間を知ること」という答えが返ってきた。機密費問題でも五?一五事件でも、社会システムやそこで起きた事実だけを見ようとするのではなく、その仕組みや空気をつくり出している人間にフォーカスしてきた。そうして、過去から現代につながる糸口を見つけていく。

例えば、機密費研究を通して見えてきた会計監査制度の根源的課題などは、行政組織や企業などの会計監査の仕組みづくりにおいて役立つ知見となり得る。また、戦前の議会政治でもよく見られたウソ情報の流布は、現代のフェイクニュースにも通じる。何が正しい情報なのかを見極めることがますます難しくなる時代だからこそ、社会システムの中で嘘がまかり通ってしまうことは意識していきたいという。

「歴史は『過去と対話すること』です。私たちは現代という違う世界にいながら、研究対象である過去の世界と対話を重ねていく中で、今の私たちには想定できないような、思いがけない返答をもらう面白さがあります。そして、その対話を通じて得られた知見に、現代の私たちに資するものが何かあればと思って、研究を続けています。時代も背景も離れた人間のなりわいを知ることで、今ここにいる自分たちの価値観も、現代という時代特有のものだと客観視できる。そこに歴史の意義や奥深さがあると考えています」

卒業論文の進捗報告会の様子。三越百貨店や新潟の歴史など、近代の多彩なテーマについて、論文執筆予定の学生による研究報告がなされている。

将来的には、戦後占領期の政治や社会までを含め、さらに長いスパンでじっくりと日本近代史を見ていきたいと話す小山教授。今取り組んでいる研究では、戦時中に反軍演説をしたことで除名処分になった斎藤隆夫という政治家が、それでも自由主義を訴え続けられたのはなぜか、探っているところだ。恐らく長い仕事になるだろうが、その道のりを経た先に、「自由」や「言論」のあり方が見えてくるに違いない。

「学生自身が関心を持てるようなテーマに出会えることが大切です。学生が選んできたテーマは、どんなものであれ一度は受け入れて、調べる方法をアドバイスするなどしてサポートします」(小山教授)

「学生自身が関心を持てるようなテーマに出会えることが大切です。学生が選んできたテーマは、どんなものであれ一度は受け入れて、調べる方法をアドバイスするなどしてサポートします」(小山教授)
【365体育比分,360足球直播 ? ナショジオ コラボ動画】文学部史学科 小山俊樹 教授の研究紹介「近代日本の社会や政治システムの変遷」